時評「カジカのつぶやき」

古沢 襄

300人の美女応援軍団

釜山アジア大会は北朝鮮が送り込んだ300人の美女応援軍団で、話が持ちきり なそうです。写真を見せて貰いましたが、成る程、とびっきりの若い美女揃い。 競技の写真を構えるカメラマンたちも、つい望遠レンズで美女軍団に見とれてし まうそうです。韓国のマスコミは連日のように美女軍団の話題つくりで大きく紙 面を割いております。
競技が終わるとバスに分乗して、市の中心部から一時間ほど離れた多大浦港に停 泊する貨客船「万景峰92号」に直行するので、言葉を交わす余裕がないのです が、そのバスをバイクで追う「追っかけ取材」も出ているといいますから、ご苦 労なことです。

無邪気な笑顔を振りまく美女軍団と冷酷な拉致を実行する工作員が、今の北朝鮮 の素顔です。私の小学校時代からの友人で大手出版社の幹部だった人が、北朝鮮 に招かれて若い世代との交流をしてきたのですが、帰国したらすっかり北朝鮮び いきになっていました。
「戦前の日本人のように純粋で礼儀正しい」とベタ褒めで、次回は一緒に北朝鮮 に行こうと勧められました。小学生の一途な純朴さは、日本では見られなくなっ たとも言っております。この人は社会主義者ではありません。ごく平凡な日本人 です。

北朝鮮の大多数の民衆は、私たちと変わらない平凡な心の持ち主だと思います。 だからこそ苛酷な金正日支配を一日も早く終わらせ、本当の意味での日朝正常化 を結ぶ必要があります。金正日支配が終焉を迎えれば、拉致問題の真相も明らか になると唱えるわけもそこにあります。
そうなれば日本は国力の許す限り、コメ支援を目一杯やりますし、経済援助もし っかりやらなくてはなりません。過去の歴史の中でそれだけの負い目を日本は背 負っているからです。北朝鮮の民衆まで憎んではいけません。それこそ偏狭なナ ショナリストに日本人がなってしまいます。

金正日支配を終わらせることを中途半端にして、日本が安易な日朝正常化をやっ てしまうのは、日本にとって脅威が残されるだけでなく、大多数の北朝鮮の民衆 を不幸の底から救えないことになります。
日本の敗戦で一億の国民は等しく悔しい思いをしたのですが、同時にファシズム の桎梏から解き放され、新しい希望に向かって再建の国造りに取り組んできまし た。いつの日か、北朝鮮にもこのような時がくると信じております。


潜入している二百人の工作員

日朝首脳会談で金正日総書記が「日本人拉致は特殊機関の一部が妄動主義、英雄 主義に走って起きた」と謝罪したことから、北朝鮮の”特殊機関”がクローズア ップされています。
これは、どこの国にもある諜報機関。アメリカのCIA ソ連のKGB、イギリ スのM15、M16、イスラエルのモサド、韓国のKCIA(現在は国家安全企 画部)など。日本では国内に限られた諜報組織として公安調査庁という貧弱なも のがあるだけです。

諜報機関というと相手国に潜入し、破壊工作をする秘密組織を連想しますが、こ れは昔の話。”007”もどきのスパイは、冷戦時代には花形で、フレデリック ・フォーサイスのスパイ小説に登場しますが、現代ではオープンに広範な情報を 蒐集し、分析する情報機関の色合いを濃くしています。
その意味では、情報管理が甘い日本が各国の諜報機関の活躍する天国になってい ます。肩書きも大使館公使とか大学教授として、広く日本社会に溶け込んでいて、 よく調べるとCIA職員だったという例があまたあります。

そんな中で北朝鮮の特殊機関は、過去の遺物ともいうべき”007”型。日本に 潜入している秘密工作員は、二百人とも三百人ともいわれています。またこの秘 密工作員を支援する日本人の支援組織が存在しています。金正日総書記の政策転 換で一番戸惑ったのは、潜入している秘密工作員と日本人の支援組織だったろう と思います。

冷戦時代には、ソ連のKGB工作員が外交官、商社員やジャーナリストを装って 日本に潜入し、諜報活動をしていたことは周知の事実です。プーチン大統領はK GBの出身。欧米など西側の情勢に明るいのは、旧東ドイツに在勤した当時に身 につけたといわれています。
日本は伝統的に情報活動を軽視する傾向があって、国家として相手国の情報を蒐 集し、分析する機能が確立していません。在外公館の活動もパーテイ外交が主で、 本省にも情報分析官は皆無に等しいのが現状です。これで世界第二の経済大国と いっているわけですから、お寒い限りです。

これからの世界の軍事・外交は、石油戦略の一点に絞られると思います。石油と いうフィルターを通して、世界の動きを分析し、これからの動きを予見すること が、必要で欠かせません。
ロシアを例にとります。ロシア経済の再生は、原油価格の動向ひとつにかかって いるといっても過言でありません。ロシアはサウジアラビアに次ぐ世界第二の原 油生産国です。中東の原油価格に較べて割高になるロシア原油は、原油価格が暴 落すると売れなくなります。コスト割れを覚悟で売れば、それだけ国家財政が危 機に瀕する構造になっています。原油価格が高値の時代にロシア石油の市場を拡 大することが、国家的な急務といえます。ですから1バレル当たり28ドル以上 になれば、ロシアにとっては好都合という図式が生まれます。逆に原油価格が1 0ドル程度までに下がったらロシア経済は破綻します。

アメリカをみてみましょう。クリントン政権は石油問題についてあまり関心を払 ってきませんでした。クリントンの政治的なバックは、金融ウォール街だったか らです。ブッシュは、軍産複合体と石油業界がバックです。
アフガン戦争が必ずおこると申したことがあります。その時にカスピ海の東岸の 国・トルクメニスタンからアフガニスタン・パキスタン経由でアラビア海に抜け るパイプラインを建設計画が背景と指摘しました。昨年の9・11事件で、ブッ シュ政権が、素早くタリバンが支配するアフガニスタンを攻撃する決断を下した 背景には、トルクメニスタンの原油と天然ガスをアフガン経由で、パキスタンの 港にまで送るパイプラインの建設を念頭においていたことだけは確かです。

アメリカは同じ石油戦略でイラク攻撃を目論んでいます。すでに戦争を予見して 中東の原油価格は上昇しています。ロシアにような石油産出国にとっては、実は プラス材料なのですが、ドイツをはじめEU各国のような石油消費国にとっては マイナス材料です。北海石油が産出するイギリスがアメリカと歩調を合わせてい るのは、この石油図式でみると頷けます。

さらにいうなら、これはアラブ各国の石油戦略とアメリカの石油戦略の激突です。 そのためにアメリカは何とかロシアの協力を得たいと外交努力を重ねています。 しかし、アメリカのイラク攻撃を黙認した結果が、アメリカによる世界の石油支 配に手を貸す結果となり、原油価格が10ドル程度にまで下がったら、ロシアは まさにアブハチ取らず・・・。

世界の諜報機関は、まさに相手国の腹の探り合いで、あらゆる情報を集めて、分 析に余念がありません。これらの国では、北朝鮮の拉致問題は、マイナーどころ か話題にもならないのが実状です。当事国である日本は、拉致問題の解決に本気 で取り組まねばならないことは言うまでもありませんが、同時に世界の動きを正 確に把握しておく必要があります。


日本語を喋れない子供たち

将来、2002年の小泉訪朝と拉致問題を検証する日がくると思いますが、@社 民党に代表される戦後の革新政党が犯した誤謬A拉致問題を無視してきた一部マ スコミや進歩的ジャーナリズムの浅はかさ・・・が白日のもとに晒された事件と して記憶されると思います。

そのことは歴史の審判に委ねるとして、一時帰国した拉致被害者の24年間の空 白は果たして埋めることができるのか、という懸念を持たざるを得ません。
今は日本全国で北朝鮮に対する怒りと憎しみが沸騰していて、冷静に考えること が難しい状況ですが、拉致被害者はともかくとして、北朝鮮人として育てられた 子供たちが、この厳しい日本社会に溶け込むことができるのだろうか、と思わず 考えてしまいます。

五人は首都ピョンヤンに居住していますが、労働者階級のほぼ倍の手当てを支給 されていて、その意味では北朝鮮でも恵まれた地位を得ていることが分かります。 子供たちは高等教育を受けていて、いずれも北朝鮮のエリートといっても良いで しょう。それが、「お父さんもお母さんも実は拉致された日本人だ」と告げられ たら計り知れないショックを受けると思います。日本を見たこともなく、日本語 も喋れない子供たちは、ただ戸惑うだけでしょう。

24年間という月日の重さは、われわれ日本人が想像もできないものが、当事者 にはあります。拉致された五人は、それこそ死線をくぐり抜けて、北朝鮮人とし てしたたかに生きてきたわけです。警察や公安調査庁は「原状回復」という原則 論を振りかざしていますが、国家としての威信を唱える前にもっと親身になって 国全体で考えてあげることがないものだろうか。それが拉致被害者を24年間も 放置してきた日本の責任でないかと思います。

とくに曾我ひとみさんの場合は、さらに複雑です。夫は逃亡米兵の烙印を押され ていて、帰国できないといっています。すでに高齢者ですから、今のまま北朝鮮 に留まりたいという希望の方が強いように思います。横田めぐみさんの娘のキム ・ヘギョンさんにしても、「日本にいるおじいさんやおばあさんに会いたい」と 言ってはいますが、実の父親と別れてまで日本に帰国永住するつもりはあります まい。まだ15歳の子供です。

拉致を憎み、糾弾する気持ちは、人後に落ちないつもりですが、具体的に五人の 拉致被害者と子供たちの身の振り方を考えると思い悩みます。それだけ24年間 は重い月日だったわけです。


キナ臭くなった朝鮮半島情勢

テロと平和攻勢が同時平行して出てくる国と北朝鮮を評したことがありましたが、 アメリカに対してこれまで否定していた核兵器開発計画を公式に認めたことは、 瀬戸際外交をとっている北朝鮮の本質が少しも変わっていないことを世界に示し たといえます。
お人好しの日本外交に較べて、まさにしたたかな相手です。金正日体制は破綻の 直前にあるので、日本が強気に出れば北朝鮮はベタ降りで、必ず譲歩してくると いう甘い観測は冷水を浴びせられた・・・と厳しくみるべきでしょう。

そもそも小泉訪朝は一種の”賭け”でした。
アメリカの本心は、金正日支配を崩壊させることにあるのが明らかです。仮に核 兵器開発計画を封印する気配を北朝鮮がみせても、次のカードである通常兵力の 削減を求め、北朝鮮にギリギリ譲歩を求めていくと思います。
最終的にはアメリカは武力解決の選択肢を捨てていないと思います。

このアメリカの態度に対して直接、戦火の被害を受ける韓国と日本は、何とか平 和的な手段によって北朝鮮の変化を促そうと考えるのも至極当然のことです。
そのチャンスはアメリカがイラク攻撃の間合いをはかることで手一杯の今しかあ りません。米国防総省もイラク攻撃と北朝鮮攻撃の二正面作戦は避けるつもりで います。
イラク攻撃によってフセイン体制を崩壊させることに成功すれば、アメリカは同 じ手法で北朝鮮攻撃のカードを切ることが容易に想定できます。

アメリカが当面は外交面で北朝鮮を追い込む戦略をとっていますが、究極の目標 が、金正日支配を崩壊させることにあるとすれば、金正日総書記との交渉によっ て平和解決を目指している韓国の”太陽政策”や拉致問題を前面に掲げて北朝鮮 の譲歩を引き出そうとしている日本外交との齟齬が生まれる危険性が内在してい ます。
私は日本と韓国が、早晩、北朝鮮政策の見直しを迫られるのではないかとみてい ます。アメリカ、日本、韓国の足並みが乱れれば、それこそ北朝鮮の思う壺とな りますから、日本と韓国がアメリカの強硬方針に引き摺られる公算があるからで す。

五人の拉致被害家族の一時帰国は、故郷に戻った感動的な情景が繰り返しテレビ で放映されていますが、その一方で、北朝鮮に対する厳しい包囲網がアメリカの 主導で構築されつつあるとみるべきでしょう。
北朝鮮の次のカードは、蓮池さん夫妻と浜本さん夫妻の家族全員の日本帰国を認 めることではないかと考えます。また曾我ひとみさんについても、夫のアメリカ 人をアメリカに引き渡さない身分保証あるいはアメリカの軍法会議で処分しない 保証を日本政府に求め、その条件で家族全員の帰国を認めるカードを切ってくる かもしれません。
このカードを温存しながら、日本に対してはコメ支援だけでなく経済協力の一部 前倒し実施を求めてくるのではないかとみております。

アメリカが懸念しているのは、北朝鮮がこのカードを切ってきた時に日本がなし 崩し的に経済協力にまで踏み込んでしまうことです。北朝鮮の核兵器開発計画を 突然、公表したのは日本に対するけん制のメッセージととらえるべきです。
北朝鮮が自ら核兵器開発計画を認めたことは、この計画を封印することを視野に 入れているとみることもできます。しかし、封印するために日朝正常化の早期妥 結と日本からの経済協力の早期実施が不可欠の条件になります。拉致問題の解決 を第一義的に押し立てている日本にとって北朝鮮が核兵器開発計画の封印という カードをちらつかせてきた時に極めて難しい判断に迫られます。下手をすると前 にも後ろにもいけない金縛りの状態に置かれてしまいます。

瀬戸際外交を身上とする北朝鮮は、そこまで読んだうえでの一連の動きに入って います。何よりも日本や韓国の国内世論が、どう動くかを微細に推し量って次の 揺さぶりをかけてくるでしょう。
小泉訪朝は一種の”賭け”と評した所以もここにあります。国内で平和運動が高 まる騒然たる状況になっても、北朝鮮に対して毅然たる態度で臨む覚悟がないと したたかな北朝鮮を相手の外交は成功しません。何となくキナ臭くなってきまし た。