ある地方紙の廃刊に思う最後の新聞となった2日付朝刊一面に「きょうで休刊します」の大見出しで読者に別 れを告げる社告が掲載されたが、同社役員が記者会見で「北海タイムス社の理念、理 想を承継していく新聞があってほしいという願いから、あえて『休刊』といわせてほ しい」と述べたように、再刊の見通しのない廃刊である。
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老舗といいながら戦後の半世紀余の歴史しかないのは、大戦末期の政府による強引な
「一県一紙」新聞統合政策があったからだ。このため戦前からの歴史を持つ地方紙の
多くが戦争で中断され、戦後再出発を余儀なくされている。
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政府の戦時言論統制の窮余の一策だった「一県一紙」体制は、3年足らずで敗戦に
よってあえなく瓦解した。当時は極度の物資不足、インフレの激化などで、新聞発行
には困難な条件下にあったが、民主化と言論の自由への国民的な熱望に支えられて、
全国津々浦々に地方紙の発刊ブームが巻き起こった。
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戦後生まれの地方紙の多くが淘汰されている中で、いま「北海タイムス」の廃刊が大
きな関心を呼んでいるのは、同紙の歩みが北海道における新聞業界の興亡史そのもの
で、新聞競争のすさまじい裏面を改めて見る思いがするからである。
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戦後いち早く札幌から新興紙の名乗りを上げた「新北海」の社長の山口喜一も、統合
直前まで旧北海タイムス編集局長だった。北海道新聞側はすぐさま別会社「夕刊・北
海タイムス社」を設立して、自社の資材、要員を送り込んでこれに対抗した。
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当時は統合間もないこともあって「北海道新聞」の名前よりも、明治以来続いていた
「北海タイムス」に愛着を感じる道民が多く、新興「北海タイムス」はたちまち全道
に勢力を伸ばしていった。
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その流れを変えたのが、皮肉にも34年の朝日、毎日、読売3社による札幌現地印刷
であり、それを契機とする北海道への積極的な進出である。それ以前の全国紙は、青
函連絡船経由の鉄道便輸送に限られており、札幌配達で1〜2日遅れが当たり前で地
元紙との速報戦では到底勝負にならなかった。
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いわば津軽海峡が全国紙の進出を阻む地元紙の「天然の障壁」になっていたのであ
る。しかし、昭和30年代初めに米国で実用化されたファクシミリによる新聞の遠隔
地向け電送技術が、北海道を新聞の別天地とすることを許さなくした。
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ファクシミリに端を発した新聞の技術革新は、とどまることを知らなかった。昭和4
0年代にはいると、新聞発祥以来使われてきた鉛の活字が次第に製作現場から追放さ
れ、電子的な植字に全面的に入れ替わっていく。
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技術革新を達成するために新聞各社は、従来使用していた活字、輪転機のすべてを廃
棄した。そして新しい設備を導入するため、優秀な人材の養成と莫大な経費を惜しげ
もなく注ぎ込んだ。こうして生き残りをかけた新聞業界の競争は、単なる販売部門だ
けでなく、全社一体となった総力戦に発展していった。
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その結果、全国紙三紙は目標には及ばなかったものの、それなりのシェアを道内に確
保した。また「北海道新聞」は道内主力紙の地位を守り抜き、激戦場から比較的離れ
た室蘭、帯広、釧路、根室などを基盤とした各地方紙も生き残った。
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この間、同社は札幌都心部にあった本社屋を売却して副都心部に移転、社内合理化と
事業の多角化に乗り出すなど、何度か必死の再建努力を試みた。だが、その方法を
巡って経営陣の交替をひんぱんに行ったことが、一層体力を弱まらせた。
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ひるがえって日本の新聞界の現状を見ると、このところ地方紙の倒産が増えている日
本新聞協会加盟紙に限っても、1990年代に入ってから関西新聞(91年4月)フ
クニチ新聞(92年4月)、東京タイムズ(同年7月)、日刊福井(93年1月)栃
木新聞(94年3月)、新大阪(95年7月)と毎年のように休、廃刊が出ているこ
とは、異常な事態と思わざるを得ない。 ◆ このままの状況で推移すれば、新聞業界は近い将来、金融業界と同じようなビッグバ ンに巻き込まれる恐れなしとしない。なぜならば、あまりにも日本独自の慣行やシス テムに守られて、新聞業界はこれまで発展してきたからである。
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第一に、先進諸国では例を見ないほど1紙当たりの部数が多いことである。いま全国
紙は数百万部から1千万部の発行部数を誇っているが、一党独裁の社会主義国党機関
紙を除いて、世界でこれほどの部数を持つ新聞が多い国はない。
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第二に、こうした大部数の保持を可能にしている秘密は、日本独自の個別配達制度に
ある。諸外国にも宅配制度はあるが、新聞代のほかに配達料を加算されたり、配達時
間も遅れることが多いので、日本ほど普及していない。
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第三に現在、新聞は公益性維持の観点から、メーカーが小売価格を決めることができ
る再販指定商品として、価格の自由競争から守られている。それが公正取引委員会に
よって新聞も自由価格にすべきだと、見直しの対象とされるようになった。 ◆ 新聞各社があくなき部数信仰、それを実現するための過当競争をいつまでも続けてい けば、いずれ多くが破綻せざるを得ない。「北海タイムス」ほか地方紙の墓標が、そ のことを物語っている。
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