地球環境問題と資本主義の今後◆ 地球温暖化といえば、1990年の地球上の平均気温が過去百年の最高をマ−ク、9 5にはこれを更新した。気象庁の地球温暖化リポ−ト最新版によると、過去百年間の 世界の平均気温は0・6度、日本では0・9度も上がっている。冬は暖かく、夏は涼 しいというのも最近の気象状況だ。長期予報では今夏も冷夏であると伝えられている ものの、関東地方は7月5日、40度を越す記録的な暑さとなり死者すら出る騒ぎ だった。ここまで来れば、地球温暖化は紛れもない事実として確実に忍び寄って来て いるのが実感されてもよいのではないかと思う。暖冬や冷夏の方が極寒や極暑に比べ て遥かに快適であるところから、人類は地球的規模でのこの危機に鈍感にならざるを えないのだろうか。
米国で罷り通る反対論◆ 一方、この鈍感さを加重させる論調が、米国では堂々と罷り通っている。最近、米 国議会関係者向けの新聞に掲載された意見広告がそれで、広告主は全米11の石炭火 力発電所に石炭を提供している共同事業体であり、二酸化炭素の排出が破壊的な地球 温暖化をもたらすという考え方は間違いだとして、リオ条約(気候変動枠組条約)廃 止しようと呼びかけている。そのうえ二酸化炭素の増加は森林の育成や食料の増産な どに好影響をもたらすとまで言い切っているのだ。 ◆ この背景には、米国の電気エネルギ−の56%を占める石炭火力を規制すると、石炭 で安い電力を得ていた国際競争力が低下し、米国経済がもたなくなるという危機感が ある。地球温暖化防止に抵抗する動きはどこの国にもあるようだが、米国の場合は石 油、石炭関係の大企業を中心として顕著だ。昨年の米国下院の科学委員会では、科学 的信頼性を欠くとして、共和党が環境保護局の地球監視計画の予算をすべて削除し た。その後、復活するにはしたが、こんなことが米国議会の中で現実に起きている。 ◆ そのような情勢の中で開かれたのが、新たにロシアが正式参加した6月のデンバ−サ ミットだった。この会議では地球温暖化問題が議せられ、G8共同宣言の中では、二 酸化炭素などの温室効果ガスを「2010年までに削減をもたらすような目標をコ ミットする意思がある」とわかりにくい表現となった。その後開かれた国連環境特別 総会でも、橋本龍太郎首相は同趣旨の演説をしている。 ◆ サミットでは、ドイツなど欧州連合(EU)が「2010年には90年水準に対し1 5%の削減」と明記したい意向だったが、日米などが抵抗したためこのようになった と伝えられている。 ◆ 12月の京都会議は「2010年までに温室効果ガスを削減する」という枠組のなか で各国の対立を抱えたまま開催されそうだ。
生態系に悪影響◆ ここで地球温暖化について、おさらいをしておこう。地球上の大気は8割弱が窒素、 2が酸素、その他が微量気体だ。微量気体のうち、二酸化炭素、亜酸化窒素、メタ ン、フロンなどが温室効果ガスと呼ばれる。これら微量気体の発生が少量のうちは問 題ないが、大量になると地球に届く太陽光エネルギ−は通すが、地球からの放射分を 吸収、反射するため、下層大気を暖めることになる。温室効果ガスのなかでも、特に 石炭や石油などを燃やすと出る二酸化炭素が焦点となる 地球温暖化が進むと、生態 系にさまざまな変化が生じる。前述の米国の石炭供給団体の楽観論とは裏腹の事態 だ。気温が上がれば、水温も上がり、水面も上昇する。水温が上がれば、南北極の氷 は溶け、そのうえ水そのものも膨張するのは当然だ。水面が上昇するのは海水だけで はない。内陸の湖沼も河川も水面が上昇する。陸地の大きな部分が浸され、農耕や家 畜飼育など人類の生活の場としての陸地が失われることになる。このような事態にな れば絶滅しないまでも、人類は環境激変の中で生存可能な者はごく限られてしまうこ とになるだろうし、それまで許されてきた人間らしい生き方もまたできなくなってし まいそうだ。 ◆ 私は環境庁長官在任中の89年11月、オランダのノルトヴェイクで開催された「大 気汚染と気候変動に関する環境大臣会議」に日本の代表として臨んだが、この時の主 たる議題が地球温暖化対策であり、二酸化炭素の排出削減の目標設定についてだっ た。 ◆ 「先進国は西暦2000年より遅くない時期までに二酸化炭素の排出を現状レベルに 安定させる必要性を認識し、2005年までに二酸化炭素の排出を20%削減する案 の実現可能性を検討することに合意する」というオランダ案をめぐり、参加国は二極 化、激しく対立する様相を呈した。米、英、ソ、中が反対、その他の諸国は支持を表 明した。僅か2日間の会議であったが、時間の経過と共に双方の対立は鮮明化し、こ のままでは国際政治の枠組(当時の枠組は米、ソ二超大国の対立)にも変動を与えか ねないとする強い危惧の念から、日本から随行した役人諸君にフルに動いてもらい、 「二酸化炭素等の排出規制については、世界経済の安定的発展を図りつつ」先進国は できるだけ早期に排出の安定化等に合意するということで、ともかく会議の決裂を回 避したのだった。「安定化というのは、二酸化炭素等の排出を従来以上にしないとい う意味ととれるのだが、ここまで漕ぎ着けること自体、容易なことではなかった。 ◆ 閉会に際してのオランダの環境大臣、ネイペルス議長から「宣言の取りまとめに尽力 した日本のイニシャチブを評価する」旨、特に発言があり、米国のライリ−環境長官 からも同様の発言があって、日本勢は大いに気をよくしたものだったが、今日以前と して目標値の設定ができないでいる現状を見るにつけ、往時を知る者として百年河清 を待つに似た感慨に打たれる。 ◆ 欧州共同体(EC)が米国同様の経済体質を有しているにもかかわらず、二酸化炭素 の規制に積極的だったのは、原子力発電に依存度が高いためであると知ったのはこの 会議の席上だった。
資本主義を洗練させる◆ 経済学の父、アダム・スミスは資本主義を説いて、市場においては個々人が自分の利 益だけを追求するという競争のなかで、市場における価格が上下し、需給が調整さ れ、あたかも神の「見えざる手」によって導かれるように、個々人の利害がバランス される、と言った。 ◆ しかし、持てる者は寝ていても豊かになり、持たざる者は働けど暮らし楽にならずと いうことが現実だった。そのような資本主義の批判から生まれたのがマルキシズム だったといえよう。 ◆ 私はマルキシズムに一度たりとも与したことはないが、マルキシズムの存在のお陰 で、資本主義が尊大であることから謙虚になり、当初は考えられもしなかった社会保 障・福祉システムを制度化するなど、資本主義を大いに洗練させたことは事実だろ う。 ◆ ところがベルリンの壁の崩壊以降、マルキシズムを標榜する国々はつぎつぎに脱落、 残るは飢餓にあえぐ北朝鮮と一国二制度を掲げる中国、カストロ率いるキュ−バなど で、世界はほぼ資本主義一色となった。 ◆ 資本主義の外部にマルキシズムのような存在がない限り、資本主義は古典的な状態に 逆行したり、再び尊大化の方向に動き出さないという保証はどこにもない私はそのよ うな困った方向に動きだしているのではないかと危ぶんでいる。 ◆ そして今、資本主義をより良いものにしていくのが地球環境問題で、私にはそれ以 外、見当たらない。 ◆ ともすればその虜になりかねない野放図な欲望から人類個々人が解放されることが必 要だが、自己抑制には自ずと限度があって、自己抑制を求めるだけで事は成就しな い。今こそ、人類の未来を危機に瀕せしめる地球環境問題への深い認識に立って、そ の解決の実現へ向かって一歩を踏み出す時が来たのではなかろうか。この時、資本主 義、地球環境問題ともに所を得たことになるだろう。
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