汚職撲滅? フィリピン通信(4)

安田 紀夫
最近、ベルリンの非政府機関(NGO)が発表した各国クリーン度調査というの があった。汚職に関する世銀の調査をもとに清潔度を指数化して弾き出したとし ている。それによるとフィリピンは調査対象百二カ国中、七十七位(註1)。東 南アジア諸国連合(ASEAN)旧五カ国ではインドネシアに次いで下位に甘ん じた。

七月中旬、駐比米大使がフィリピンへの投資阻害要因として「汚職」を指摘、大 問題となった。一部国会議員は「内政干渉だ。国会に喚問せよ」と息巻いた。そ れほど比国民にとって耳の痛い話なのだ。アロヨ大統領も遅れ馳せながら汚職撲 滅委員会を政府内に設置、汚名払拭に乗り出した。

汚職横行の理由の一つは賃金の安さがあるかもしれない。公務員は、内職をしな いとやっていけないという。教員の給与も安く、家族の面倒をみなければならな くなった先生たちが海外就労者(OFW)に志願、香港へメードとして就職した り、カラオケで働いて日本へ行く機会をうかがったりしている。大統領の月間給 与は五万ペソ(約十二万円)といわれている。ところが、一部特権階級の大金持 ちもいてそのばらつきが甚だしい。

ビジネス街、マカティ市にはフォルベスパーク、ウルダネタ、ベルエアなどビレ ッジと呼ばれる高級住宅街がある。外部からは遮断された特別居住区。厳重に出 入りがチェックされ、関係者以外の車の乗り入れも認められない。アヤラ通りと いう同市内の目抜き通りはアヤラ財閥が市に貸与している私有地だという。東京 で言えば、青山通りのような目抜き通りが財閥の私有地というわけだ。

政界や官界で要職にある人材が立場を利用して、賄賂を取るケースが頻繁にみら れる。許認可がらみで特に多いようだ。
薬物がらみの事件に巻き込まれたある若い日本人居住者のケース。警察の上層部 にツテを頼って相談に行ったら、裁判官を買収するのが一番手っ取り早いと勧め られたが、ミリオン(百万ぺそ=約二百三十三万円)かかると催促されたという。 思案していたら、その下のクラスの要職者からもミリオンの要求があったという。 とても払える額ではないのであきらめたとか。

この国はラモス政権以来、経済活性化策として外資導入を本格化させたが、その ための売り物は労働者の賃金の安さだから、最低賃金(註2)を簡単に上昇させ るわけにはいかない。憲法で外人の土地所有は禁じており、外資にとって労働コ ストの安さだけが一番の魅力なのだ。ところが近年、ベトナムや中国の追い上げ 激しく、外資はそちらへ流れがち。広く英語が話せる、というセールスポイント だけでは太刀打ちできない情勢なのだ。経済学者のアロヨ大統領は「貧困対策」 は唱えても、「所得倍増」などとは口が裂けても言わない。むしろ、お金を貯め ての起業、投資を呼びかけている。

こうした環境のなかで警察官を含めた役人たちはなにかと金を催促する。一般の 人たちは警官がもっとも腐敗していると公言してはばからない。警察は正義の味 方ではなく、金の味方というわけだ。税務署職員は納入された税金をくすねる。 最近、国税局に納入されるべき大金が別の架空口座に振り込まれる事件が発覚 (註3)、降り込んだ銀行の幹部らが資金洗浄防止法違反で逮捕された。しかし、 金の行方は不明のままだ。これでは誰もまともに税金を納める気にはならないだ ろう。今年の政府の上半期税収は15%未達成で、徴税不足を指摘され、国税局 長が責任をとって辞任したばかりだ。上半期、国内総生産(GDP)は政府目標 (4−4・5%)を達成しており、景気低迷は税収不足の言い訳にはならなかっ た。「公」とか「正義」がはなはだ存在感の薄い国だから、金がないのにトラブ ルに巻き込まれると地獄へ落ちることになる。

(註1)トップはフィンランド、次いでニュージーランド、デンマークが二位。 フィリピンと同じレベルはパキスタン、ルーマニア、ザンビア。ちなみに日本は 二十位。
(註2)マニラ首都圏で非農業労働者は一日、280ペソ(約700円)、月2 6日労働で月額7280ペソ。六人家族(1・9人就業)で生活費が月平均15、 300ペソとの政府統計(労働雇用省、2001年発表)がある。
(註3)七月三十一日、国家捜査局は政府系金融機関ランドバンクの支店長を逮 捕。同支店経由で国税局に納めるべき税金計二億三百万ペソ(約五億円)を架空 の四口座に送金、一億九千四百ペソが不明になった。