野鳥

安田 紀夫

冬の楽しみは野鳥を眺めることである。利根川を越えて東京都心から40`圏、 守谷の地に来てからわずかばかりの庭に日本野鳥の会から取り寄せた餌台をセ ット、鳥たちに餌をやり始めた。普段は10数羽のスズメとつがいのキジバト ぐらいだが、秋が深まるとヒヨドリがやってくる。鳴き声がえげつないのであ まり好きになれないが、これほど敏捷な鳥もいまい。

5年ほど前、大阪に単身赴任していたとき豊中市の服部緑地の直ぐそばに住ん でいた。毎朝、この広大な公園を約40分散歩していたが、ロールパンを2つ、 ポケットに忍ばせてスズメと鳩に餌ずけをした。
昔スズメを飼ったことがあるが、賢い鳥だ。人を判別する。なじみになったス ズメどもは電線の上で私の姿を認めるとスーッと降りてくる。知らぬ顔をして 通り過ぎようとすると、足先に立ちはだかるように見上げて餌を催促するやつ もいる。

あるとき、ヒヨドリが紛れ込んできてスズメの食い分を横取りした。そこで空 中に餌を放り投げた。スズメとヒヨドリを分離する作戦である。ヒヨドリは餌 を追って飛翔し、みごとに地上寸前でキャッチした。
以来、ヒヨドリのたむろする樹木のあたりに差し掛かるとパンを空高く投げる。 数羽のヒヨドリが次々と空中ダイビングを決め、餌をゲットするのを面白く眺 めたものだ。この鳥は暴れん坊で餌台に近づくほかの小鳥たちを追っかけ回す。 スズメもメジロも逃げまわる。

メジロが来るのは寒くなってからだ。この冬は早くも11月半ばに姿を現わし た。リンゴやミカンを鋭いくちばしでついばんでいる。垣根に植えた寒椿の花 のみつを吸いに現れたのが始まりで、最近は餌台に直行する。ときどき水浴び をしている。同じ餌はヒヨドリの好物でもあるから始末がわるい。ヒヨドリに 追われると、メジロはきんもくせいなどの茂みの中にさっと身を隠す。


冬の異変、シジュウカラ


この冬の異変はやたらとシジュウカラが姿をみせることだ。こんなにしょっち ゅう庭にやって来たのは、ここに居を構えてから初めてである。ブドウ棚に止 まって、どこからか虫を捕まえてきて食べている。黒と白のコントラストが鮮 やかで、鳴き声もさえずりも美しい。

シジュウカラもメジロもひとときもじっとしていない。せわしなく尾、首を動 かし幹の下から上へ、枝から枝へ。人に慣れてしまったスズメとはなにしろ動 きが違う。そのすばやい動作を見ているだけで退屈しない。

わが庭の「訪問客」で1番大物の風格があるのはツグミである。この鳥もミカ ン、リンゴやナシが大好物である。ツグミは餌台に陣取って何か考え事でもし ているようにじっと中空を見上げ、それからおもむろにくちばしを伸ばす。張 った大ぶりな胸の黒い斑点が美しく、つい「うまそうだな」と思ってしまう。 ちょっと不謹慎だけれど。ツグミが来るとさすがのヒヨドリも遠くから眺めて いるだけだ。

たまにしか来ないのがウグイスとジョウビタキである。ウグイスは椿のみつを 吸ってさっと通り過ぎていく。餌台には見向きもしない。かわいらしいのはジ ョウビタキの雌である。めったに顔を見せないが、来始めると何日もやって来 る。明るい茶っぽい体毛、ぷっくりふくらんだおしり。ぴょんぴょん地面を小 さく飛びながら餌を漁っていく。そのしぐさが愛らしい。

住宅地周辺ではほかにもセグロセキレイ、カワラヒワ、ムクドリ、アオジなど を見かける。ムクドリは集団で電線に止まってかしましい。服部緑地でよく見 た飛ぶ姿の美しいイカルが見られないのが残念だ。

鳥たちの姿を追ってガラス戸越しに眺めていると、あっというまに冬の日は落 ちる。8_ビデオでときどき撮影をする。そのテープを見るのも新しい発見が あって楽しい。
ビデオでよく見ると、あの愛らしいメジロがおそろしくどう猛にリンゴにくち ばしを突っ込んでいるのがわかる。かくて週末の午後は庭の鳥たちを眺めるの と、もう40年にもなる趣味の競馬をテレビで観戦するのとで暮れていくので ある。(註)山陰中央新報コラム「羅針盤」=99年2月21日付け=