サマータイム

安田 紀夫

 かって葬り去られたサマータイム(夏時間)を2001年に復活させようとす る動きが進行している。政府の「地球環境と夏時間を考える国民会議」が近く最 終報告書をまとめるし、参院の超党派で結成している「サマータイム制度研究議 員連盟」も今国会に議員立法で成立を目指しているという。

97年の地球温暖化防止京都会議で、温室効果ガスの6%削減を2012年ま でに実現するよう義務づけられたことが背景にあるようだ。
通産省などの試算によると、夏時間を7ヶ月実施して省エネ効果が原油換算で5 0万8千`g、余暇拡大による消費増大が6千4百億円、地球温暖化の元凶であ る二酸化炭素を最大44万3千d減らせるという。

サマータイムはほぼ半世紀前に1度、採用され4年で廃止の憂き目にあってい る。当時はどういう状況だったか。
 この制度は1948年、連合軍司令部(GHQ)の指示で始まった。48年と いえば終戦直後。帝銀事件が発生し、作家太宰治が多摩川上水で心中、美空ひば りの「悲しき口笛」がヒットした年だ。

新聞の縮刷版をみると、電力の節約にはなったようだが「明るいうちから遊び でもあるまい」と喫茶店、飲食店、カフェーなどは売上げあがったり。帰りのラ ッシュが緩和、夜学生に好評などの記事が散見されるが、多くの人は寝不足をき たしてブーイング。私も中学生だったが、眠かったという以外に記憶がない。

当初、5月から導入され9月第1週で終了したが、翌年、拡大して4月第1週 から1ヶ月早めて実施されると猛反発をくらい、50年にはまたもとの5月―9 月に戻された。4月では北海道にはまだ雪が残っている。それなのに夏時間か、 といった不満が続出した。東西に長い日本列島の地理的特徴を考えると、いっせ いに実施するには限界があるようだ。サマータイムは、多くの場合、高緯度で夏 冬の日照時間の差が大きい国で採られていて、日本のような気候、風土の国には 不向きといわれている。


睡眠不足のメカニズム


この国の夏は高温多湿、夜は寝苦しい。気温が摂氏30度以上になると「真夏 日」、最低気温が25度より下がらぬ夜を「熱帯夜」という。普段でも睡眠不足 の元凶である。

夏時間が睡眠不足をもたらすメカニズムはこうだ。時計を1時間進めて早く起 きるのはいいが、夏の夜がこれに合わせて1時間早く涼しくなってくれるわけで はない。夜の気象条件は「標準時間」で進行し、朝は「夏時間」で1時間早く起 きるとなると、どうしても睡眠時間にしわ寄せがくる。

熱帯夜はひと夏にどれくらいあるか。気象年鑑によると97年、東京で19日 (18)、松江で8日(6)=かっこ内は平年。近年でもっとも暑かった94年 は東京でなんと47日、松江でも22日あった。

 交通信号機の調整などでの経済的ロス、労働強化につながるーなどさまざまな 疑問や懸念が表明されているが、一番の問題は自然環境が厳しくて、夏時間導入 による肉体的、精神的苦痛がばかにならないということではないか。

私はフランスに4年余滞在してかの地でのサマータイムも経験したが、これは 時計の針を1時間進めたり遅らせたりするだけの話で、すぐ順応できる。ずっと 北に位置するパリの夏は東京と比較にならぬぐらいしのぎやすい。

 いまのところ、マスメディアの多くは導入に反対を表明しているようだが、総 理府の98年の世論調査によると、肯定派がこの年、初めて50%を超えた。 「エネルギーの節約」「余暇の拡大」などが賛成の理由である。

半世紀前に比べれば週休2日制やバカンスの定着・企業や公共の場での冷房施 設の完備、各家庭へのエアコンの普及―など夏場の労働と暮しをめぐる社会環境 は大きくさま変わりしているのも事実。導入の是非に関しては、余暇の活用やエ ネルギー節減などでどんな政策が打ち出されるか、そこがポイントになるだろう。 そのフォローアップなしでサマータイムを国民に押し付けるだけなら、50年前 と同じ運命をたどるのではないか。(註)山陰中央新報コラム「羅針盤」=99 年5月9日付=