反響の多さに驚き TVに主演して一年


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NHK教育テレビのETV特集で「農民文学の見た戦後農業」が三夜連続で 放映されたのは、昨年(1996年)六月だった。その中日の十八日に 私は、久保田おさちさん(岩手県花巻市在住)とペアで出演させてもら った。二人とも昭和七年(一九三二)生まれである。取材の折りにデイ レクターが言った。
「戦後の農村で青春を生きた二人の女性を、作品にそって対照的に紹介 したいのです」

久保田おさちさんは村に生まれ、農家に嫁ぎ、農婦の道を生き抜いた詩 人であった。私の方は戦後の農村の民主化に夢を抱き、自由恋愛に青春 を賭けて夢破れ、二十代の後半に村をとび出している。その原点にこだ わって私は小説を書いてきた。テレビ映像は何を引き出そうとするのか。 四日間の取材ロケの間、私には不安しかなかった。

そんな私が取材を忘れて心からホッとしたのは、郷里の村で推薦農家を 二軒訪ねた時だった。その一軒は酪農経営に取り組む四十代の夫婦。そ の妻はかつて4Hクラブのリーダーだった。一方の農家はサラリーマン の夫に代わり、妻が産業用無人ヘリを使い、自宅農業と水稲受託作業を こなす変わり種。彼女は自分の名刺を持って仕事をするプロの農業士だ った。私が青春時代に抱いた夢の多くを、彼女たちは見事に果たしてい てくれた。

国際化の波にもまれる現代農業も、こうした人々の地道で果敢な努力が あるかぎり、明日に希望が持てるだろうと私は嬉しかった。

「思いを文に託して」と題して放映された番組は、意外なほど好評で、電 話や手紙で多くの感想が寄せられた。久保田さんも私も、生まれ合わせた 戦後の時代を真っ向から受けとめ,悦び傷つきながら自分の道を歩んでき た。テレビの映像はそこに人間ドラマを映し出して見せてくれた。理屈で ない生身の女の生きざまが視聴者の感動を誘ったのだろう。その感動が農 村問題の解決に少しでも結びついてほしい。

私は今、そんなことを願っている。
 

 
杜父魚文庫