よんよんという言葉



その心筋梗塞男は、ベッドのプレートによると梅庭孝二という、芸能界にあるよ うな名前だった。昭和16年北海道生まれの彼は、24歳から29歳まで(昭和40.3から 昭和45.826まで)の6年間近く、北海道の太平洋炭砿で働き、エネルギー政策転換 の余波を受け本土に渡ってきた。彼は数字に滅法つよく、その記憶力見事だった。

彼はのっけから「4、4(よんよん)という言葉知っているかい」と、私にヤマの知 識を試してきた。首を横に振ると、彼は笑みをうかべ炭山のレクチャーに本腰を いれた。
「坑道の炭層にしたがって掘り進んでゆく面を切り羽と言うのは知っているだろ う、その切り羽の下の部分の長さを4、4というんだ」と、両手で半円を書き下の 直線の部分を指し示した。
「4、4というのは坑道の幅で、幅が4m40cmを4、4、太平洋炭砿では一般に5、3が 多かった。たまに7、0というのがあり、これは本坑道の幅だ」

「この切り羽に発破をかけて爆破し石炭を掘り出すのだが、それには削岩機で切 り羽にダイナマイトを入れる孔を開けるんだ。俺たちは削岩機のことをハンマー といっていた。削岩機の先にはロットといって2mの錐の大きなものがついていて、 ロットの径は約50mm、それを回転させ、深さ1.8mの孔を切り羽に直角に開けた。 切り羽にはつごう半円状に53箇所の孔を開けることになる。でも、これだけでは 崩れないので、今度は2箇所互いに中央部に向かうように斜めに掘る。これは芯 抜きといって俺達は『ばか発破』と呼んでいた」

「孔を掘ることを『さっこう』といった。穿った孔には、先玉と呼ぶ保護材を詰 め、ダイナマイト2本、その後に雷管を挿入し、最後に『タツペ』と呼ぶ砂子を詰 める。ばか発破にはサイズの長い1008といったダイナマイトを3本詰めた」
「発破をかけて落ちればいいが、切り羽が硬く少ししか落ちないときの発破音を 『てつぽ』といった。音で崩れた量、上手く掘れたかどうかが分かった」
「発破をかけるときは、規定どおり50m離れた物陰にかくれた。そういえば坑道の 壁のことを『どべら』といっていた」

「崩した石炭は『ニトロ台車』に積み、バッテリー車で竪抗のところまで運搬し たあとは、巻き上げ機で地上まで運び上げた。竪抗の手前には、竪抗への転落防 止のため、交わし線のような脱線装置というものがついていた。狭い所は人が押 す人力車もあった。バッテリー車には12Vのバッテリーが48ケ積んであり、それが 4車あった。バッテリーは長くて10時間、短いと8時間しかもたなかった」

「甲種、乙種という言葉しっているか。甲種は甲種炭山のことで、太平洋炭砿は 甲種のヤマだ。甲種は坑内での発生ガスが少ないヤマのことだ。乙種は逆にガス の発生の危険の伴うヤマだ、太平洋は甲種のヤマで安全だから働くことにした」

「そうそう、ダイナマイトを知っているよな。ダイナマイトって面白いんだぜ。 ダイナマイトに油紙を巻くと、本来の強度が出て強くなるんだ。普段軟らかいけ れど、冬は要注意だ。寒さで硬くなったダイナマイトを、不用意に扱って折って しまうと発火源がなくても爆発するから危なくてどうしょうもない」
「またこんなこともあるんだ」といって彼はニヤット笑った。
「ダイナマイトのこと、俺たちニトロと呼んでいたが、これがゼリー状で軟らか いのだが、これが水虫の薬の代わりになるんだ、足に塗るとよく効くんだ。その ほかに、歯が痛いとき歯につけると、痛みがすぐ直る。でも付けすぎると歯がボ ロボロになるし、水虫も一緒、つけ過ぎると足の裏はボロボロに爛れてまずいこ とになる」
 

 
杜父魚文庫